東京高等裁判所 昭和38年(う)1078号 判決 1964年1月27日
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中二七〇日を、原審の本刑に算入する。
当審における訴訟費用は、被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人津田騰三の提出にかかる控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所は事実の取調を行つたうえ、次のとおり判断する。
控訴趣意第一点(なお、弁護人は、当審公判において、控訴趣意書写の五枚表六行目から六枚表四行目まで、および九枚裏六行目から一一枚表三行目の報告してあるまでを撤回すると述べた。)の(1)について。
所論は、原判示第一の事実(兇器準備集合)には、重大な事実の誤認があるという主張である。
そこで、審按するに、進んで出撃しようとしたのではなくても、相手が襲撃してきた際にはこれを迎撃し、相手を共同して殺傷する目的をもつて、兇器を準備し、自己および身内の者が集合したときは、刑法第二〇八条の二第一項の犯罪が成立する(昭和三六年(あ)第二七〇九号同三七年三月二七日最高裁判所第三小法廷決定の趣旨、刑集一六巻三号三二六頁参照)。また、刑法第二〇八条の二第一項にいう兇器の「準備」とは、兇器を当該加害目的に使用できる状態におくことをいう。集合の場所と準備の場所とが一致する必要もないが、事実上、当該加害目的に使用されうる状態にあることを要する。兇器の準備は必ずしも集合の前になされることを要しない。集合したのち準備がなされたばあいには、準備がなされた時に既遂となる。右条項にいう「集合」とは、二人以上の者が共同の行為をする目的で一定の時刻、一定の場所に集まることである。そして、原判示第一の事実は、原判決が右事実につき掲記している関係証拠および当審証人糸井米雄に対する尋問調書中の供述記載の一部により十分認めることができる。すなわち、被告人白石および原審相被告人中島健、同大竹武男、同森山正の四名は、共同して、被告人白石の内妻横山悦子が、原判示の日時頃、義人党幹部の地崎健治の輩下に幹旋を受けた原判示売春の相手客から、原判示の現金を窃取して逃走をしたために、同女と被告人白石が右地崎や同党の幹部丸岡守らから所在をさぐられ、もし、その所在が発見されたときは、同人らから、いかなる危害を加えられるかもしれないと思惟し、その場合には、これに対抗して立ち向うのもやむを得ないものと決意し、その準備のために、被告人白石は右中島ほか一名とともに、昭和三七年八月二六日東京都荒川区日暮里所在の三進小銃器製作所に赴き、同製作所において、猟銃二丁と弾丸二五発を購入したうえ、右猟銃などを同都同区南千住五丁目一一七番地山陽荘アパート内糸井米雄の居宅に持ち運び、同人に対し一時右猟銃などの保管方を依頼したこと、翌二七日情を知つた右糸井は、その妻と二人で、右丸岡らから襲撃されることの危険を感じて同年八月二六日の夜から被告人白石ほか八名の宿泊していた原判示里見旅館に右猟銃などを持つて行つたこと、(なお、その時、被告人白石、横山悦子、右中島は、同旅館におらず、その付近で待機していた。)原判示短刀一本は、すでに、右二六日夜右里見旅館におかれてあつたので、被告人白石とその一味の者は、原判示の日時頃これらの兇器を携行して右里見旅館およびその付近に集まつたことが明らかであるから右の事実関係の下においては、前段説示したように被告人白石の原判示第一の所為は、兇器を準備して集合をしたことにあたるものといわなければならない。
同点の(2)および(3)について。
所論は、原判示第四の事実(麻薬取締法違反)および原判示第七の事実(薬事法違反)には、いずれも重大な事実の誤認があるという主張である。
しかし、原判示第四の事実について、被告人白石が糸井米雄の原判示麻薬を譲り受けた所為に共同加功をしたこと、および原判示第七の事実につき、原審相被告人中島健の原判示全身麻酔薬チオペンタールナトリウムを販売した所為に、被告人白石が共謀をしたことを含めて、右各事実は、原判決が右各事実につき挙示する対応証拠および当審証人中島健に対する尋問調書中の供述記載の一部、当審証人山崎正夫の当公廷における供述により優に肯認することができる。
以上のとおり、原判示第一、同第四および同第七の各事実には、所論のような事実誤認は存しないから、所論は採用できない。
同第二点および第三点について。
所論は、量刑不当の主張であるが、記録を調査し、これにあらわれた本件犯行の動機、回数、罪質、態様、被告人の年令、経歴、前科、生活態度、その他の情状を斟酌すれば、被告人に対する原判決の量刑は相当であつて、重きにすぎるものとはいえないから、論旨は理由がない。
よつて、刑事訴訟法第三九六条、第一八一条第一項本文、刑法第二一条により主文のとおり判決する。
検察官 中村正夫出席
(裁判長判事 小林健治 判事 遠藤吉彦 吉川由己夫)